目の前の目標にがむしゃらだった
<profile>白峰中学校出身 卒業後、株式会社帝国ホテル大阪へ入社。現在は宴会調理部に配属
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一足先に通う兄の影響
私が坂出第一高校の食物科を選んだきっかけは、まず兄の存在が大きいです。私には7つ年上の兄がいるのですが、その兄も食物科に通っていました。自宅で包丁を砥いだり、自主練習する姿を目にしたり、親との会話で食物科の様子を耳にすることで、徐々に自分も料理に興味が湧き、料理について調べて作るようになりました。もう一つの理由は、その当時やっていた、料理ドラマです。料理人を演じる俳優の料理の手際の良さの演技を見て、単純に自分もモテたいと思いました。(笑) あとあと冷静に考えたら、俳優なので実際の料理は別の演出ということだったんでしょうが、当時の私は完全にドラマにはまっていました。そんな経緯もあって、高校の進路を決める時には、当然調理師を目指そうと思いが強く、卒業とともに調理師免許を取得ができる食物科を第一希望で入試に挑みました。
『料理』『部活』『仲間』何もかもが楽しい日々!
高校時代は、『料理』、『部活』、『仲間』の3つがとても充実していました。印象に残っているのは、島キッチンに参加したことです。三年に一度開催される瀬戸内国際芸術祭で、豊島にある島キッチンに国際ボランティアとして参加しました。当初は、仲間と参加すれば、楽しそう程度でした。島キッチンのある豊島は、過去の産業廃棄事件で人離れが進んだ歴史があり、その事件を未来に繰り返さないことや、意外と知られていない食材抱負で文字通り、豊かな島という魅力を世界へ発信するために、芸術作品としてレストランが建てられています。またレストランで作られる地産地消の料理を、お客様に食べてもらうところまでが芸術作品という、とても魅力的なコンセプトと知りました。参加したことで食の意義や土地の歴史や文化との繋がりなど、座学で学んだ食文化をそのままダイレクトに体験することが出来ました。また島キッチンには、豊島の方々と一緒に、東京丸の内ホテルで働くシェフや料理長も自ら参加しており、お客さまを目の前にした厨房の中で一緒に調理の仕事ができたことは、授業やアルバイトでは実感できなかった、調理のやりがいやお客さまとの触れ合いの喜びを感じることできた、とても有意義な時間でした。他にも料理研究部に臨時で参加して、2000人ほどの観客の前で船盛パフォーマンスに参加したことも印象に残っています。曲に合わせて30秒で鯛をおろすなど、日にちが限られる中で、成功するまで何度も何度も必死に練習をして、夜遅くまで過ごした記憶があります。一緒に参加した仲間の存在や、きっかけをいただいた先生方には本当に感謝しています。当時は当たり前のように練習に明け暮れていましたが、今思えば練習の食材など、どうやって工面していたのか?たぶん色々と苦労されたのでは?と思います。そして所属するバスケットボール部は、いい意味で最高の息抜きだったと思います。お世辞にも強いチームでは無かったと思いますが、強いチームを相手に必死になってプレイをしていました。当時を振り返って、『必死になれる』ではなく、『必死に慣れる』と書いた方が正解かもしれません。私の場合は器用に先のことを考えてではなく、目の前のことに一生懸命になれたことで、自然と努力を楽しめたんじゃないかと思います。それはより厳しい現場の今でも大切なことだと思っています。
『お客様を第一に』を意識する日々
帝国ホテル大阪に入社して、現在、宴会調理部ホットセクションに所属しています。私はソシエと呼ばれるポジションで、メイン料理を仕切る担当として主にソースを作らせていただいています。フレンチ料理において、ソースは味の決め手となる重要なものです。3~4人前の料理ではなく、何百、何千人前の大量のソースの細かな調整することはとても難しいことです。一つひとつの工程を丁寧かつ素早く見極めて味の確認をしています。そんな仕事をするうえで、私が大切にしていることは、任された仕事に満足せず、自分の中で理想を持ち、緊張感を持つことです。ホテルにはウォーマーと呼ばれる保温機器もありますが、頼りすぎると料理の美味しさが失われます。お客様の食事スピードなど先を読み、お客様一人ひとりのクオリティーを上げるよう努めています。お客様からすると、帝国ホテルでの食事は特別な一日です。そして、その特別な時間を支える一皿として、お客様のお役に立てることはとても料理人冥利に尽きることだと感じます。ホテルで勤めて、レストランとの微妙な料理の役目の違いを感じます。もちろん『美味しい料理を作る』ことに違いはありませんが、お客様の利用する場面が違うということです。高校の時に、実習担当の先生がホテルとレストランでは違うと話していたことを思い出します。当時は、料理という大きなくくりでしか考えていませんでしたが、お客様の存在を知った今は理解できますし、帝国ホテルの一員であることが自分へ大きなやりがい生んでくれています。お客様を第一に考えて料理を作ることを大切に日々精進しています。
求められることを楽しんで!努力を努力と呼ばないポジティブな価値観
多くの料理を作るということは本当に難しいことです。大きな場所を必要とし、同時に多くの人が動き、通常であれば一度のサービスで多くの時間がかかります。その流れを止めないために作業効率やコミュニケーション力が重要です。高校の時は『話す』ことがコミュニケーションと思っていました。しかし現場ではそれほど会話はありません。それでもお互いが動きを理解しています。それをより理解し易くするために普段の何気ない時の挨拶や会話が大切になります。自分が担当する以外の仕事や料理に対して尽きない関心を持つことがプロとして求められる力だと思います。高校の頃に耳にした『社会性』とはそうゆう力だと思います。食物科では、先生から様々なことを求められませんか?時には無茶な要求もあるかもしれません。自分はそれがチャンスとなり、大きな経験を積むことになりました。今私には後輩がいます。後輩に仕事を任す時に判断することは、それが出来る人材か?出来ない人材か?を見極めることです。明らかに経験不足でタイミング的に早い人材に無責任に任せることはできません。その人材に応える力があり、その人材や会社のプラスになると思って任せます。食物科には当時からその風潮がありました。先生から求められたということは、それが出来ると評価されているはずです。成長には経験が不可欠です。そしてその期待に応えるように努力することを楽しんでください。そんな後輩と帝国ホテルの一員として一緒に料理が作れる日が来ることを期待しています。
